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最高裁判所第三小法廷 昭和54年(行ツ)74号 判決

上告人 西村隆志 ほか六名

被上告人 静内郵便局長 ほか一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人草島万三、同横路孝弘、同山中善夫の上告理由一について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同二について

郵政省と全逓信労働組合との間の労働協約において、やむをえない事由がある場合には郵政省が職員に時間外労働又は休日労働をさせることができる旨の合意がされ、郵政省就業規則にも同旨の定めがされたこと、及び被上告人静内郵便局長と右組合日胆地方支部長との間において、同被上告人が所属職員につき労働基準法三二条又は四〇条所定の労働時間を延長しうる旨の協定が締結されたことは、いずれも、原審の適法に確定するところであり、上告人らはその勤務時間内に配達すべき郵便物を数多く持ち戻つたため本件時間外労働を命ぜられたものであつて、右は前記労働協約に定めるやむをえない事由がある場合に該当する旨の原審の認定判断も、肯認することができる。原審は、これを前提とし、また、「国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法」六条の規定に基づいて郵政大臣が制定した「郵政事業職員勤務時間、休憩、休日および休暇規程」は所属長が職員に対して一定の場合に時間外勤務を命ずることができる旨定めており、右は国家公務員法九八条所定の職務上の命令に当たるものであるとして、本件時間外労働を命ぜられたことにより上告人らは時間外労働の義務を負うに至つたと判断したものと解される。原審の右判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤正己 横井大三 木戸口久治 安岡滿彦)

上告理由

原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違反があるので破棄を免れない。

一 経験則違反

(1)  原判決は公労法が郵政職員に適用されることになつた際締結された暫定協約の解釈として、勤務時間は五時一五分までに延長されることになつたとしている。

しかしながら、暫定協約では、その第一条で「……公労法第四〇条第一項により、従前の法律の適用を除外された労働条件は昭和二七年一二月三一日において適用されていた法令の規定する取扱及び従前の慣行による」と定められていたのであり、昭和二七年一二月三一日において適用されていた法令の規定する取扱及び従前の慣行によれば勤務時間は五時までであつたのである。このことは土生・佐伯両証人が立場は異なりこそすれ一致して認めているのである。従つて原判決のいうように勤務時間が五時一五分まで延長されることになつたとの解釈は明らかに誤つている。

(2)  更に原判決は昭和三二年一二月五日の合意における「従来の実態どおりで行く」の意味について「勤務の終りに一五分の特例休息をおいた形とする従来の例外的取扱いを維持すること」となつた旨認定しているが、これを認定するに当つて、郵政省当局が作成した説明文書(甲第一三号証)を全く無視し、またこれに関する土生証言の「この解釈は問違つています」という証言がいかに明文の当局側も認めていた解釈をねじまげた不自然な証言であるかを顧りみず五時に退社するのが実態となつていなかつたと論結したものである。

(3)  これらは全く物事の道理を無視したものであり、事実認定に当つての経験則に違反しており、その結果は判決に影響を及ぼすことは明らかである。

二 原判決は郵政職員の勤務関係は公法上の関係であると判断している。しかしながら、原判決も自認するとおりその労働条件或いは労使関係については全面的に労基法・労組法・労調法によつているのであつて、公務員の労働関係とは全く異なる扱いがなされているのであり、郵政職員の労働関係については公務員の労働関係とは全く異なるのである。

原判決の解釈は郵政職員の労働関係について労基法等によることとした法律の趣旨を全く没却するものであり、法令違反であつて、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

問題は超過勤務の性格をどう解するかであるが、これについては原審でもるるのべたところであるので、原審における準備書面を援用する。

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